節目にあたる時期になれば、それなりに報道されることもある福島第一原発事故だが、多くの国民にとっては「過去のこと」になりつつある。

しかし、東北大震災についても、福島原発事故についても、リアルタイムで経験している僕たちは、そのことを忘れてはいけないし、もっと学ばなくてはいけないと思い本書を手に取った。

なお、副題に「吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」とあるが、この本における主なインタビュー元は、原発事故当時現場で働いていた人々(その日の当直長であった伊沢郁夫など)であり、吉田所長のインタビュー部分はそれほど多くない点は注意が必要です。


「死の淵を見た男」で気になった箇所




「一国の総理が、作業をやっている人たちにねぎらいの言葉ではなく、そういう言葉を発したわけでね。これは、まずい、と思いました」

本書では、政府関係者の登場場面はそれほど多くないが、菅直人首相(当時)が福島に乗り込んでくる場面などは描かれている。

本書は、あくまで事実を書き、誰かに対しての批判などはそれほど書かれていないが、この時の管直人氏の行動についてはかなり批判的に書いている。

「政府がベントのことであまり前に出ちゃうと、東電の責任が薄くなってしまう。だから、ベントは、あくまで一義的に事業者の判断でおこなうべきなんだと、言ったんです」 

やはり事業においても、他のことにおいてもどこに責任があるのかを明確にしておくことは最低限必要なことだろう。そういった意味で、株式会社というシステム(特に上場会社)は、責任の所在があいまいになりやすい点には注意が必要だろう。

もともと株式会社という仕組みは、リスク分散の観点から誕生したものであり、それは同時に責任の所在もあいまいなものにしてしまうというマイナス点がある。(それ自体もメリットなのかもしれないが・・・。)

さらに、東電のような公的な意味合いの強い事業者の場合は、国や地方自治体との関係も絡んでくるので、よりいっそうどこに責任があり、誰がどのような権限を持つのかが不明瞭だったのではないかと推察される。

そして、そのことが事故発生の初期段階での対応の遅れにつながったように感じられる。(もっといえば、自然災害やテロなどへの対応が不十分だったのも、この当たりに原因がありそう) 


 

「死の淵を見た男」を読んだみんなの感想


Amazonの評価数が170を超えている。ノンフィクションの分野では、かなり多いレビュー数だ。

50
また、ブクログでも多数のレビューが寄せられている。また、その評価も高い。

32

以下、ブクログにおける本書のレビューをいくつか引用させていただく。
3.11東日本大震災にて福島第一原発に起こった事を、現場の人達の言葉から綴ったノンフィクション。
消えていく照明、原子炉の情報を示すメーターも消える。システム化された状況で全ての情報が途絶えるなか、原子炉の暴走を止めるべく戦っていた。
そこには、すごいプロ意識と使命感があった。
また、原子炉を冷却するため、各地から結集した消防隊。上空からのヘリ消火をした自衛隊。
現場のさまざまな人の力で、チェルノブイリ級の事故にならず、なんとか抑えこむことに成功した。
みんな家族がいるなかで、任務をまっとうした。
これは、後世に残すべき大接近な歴史だと思う。
災害とテロが起きた時に、全電源を喪っても原子炉を冷却する必要がある。必要な対策を、事前に施してなかったことは悔やまれる。 
福島第一原発の大事故を当事者たちの実名で綴った渾身のノンフィクション。原発の是非、東電トップや政治家の責任ということよりも現場ではどうだったかが知りたくてこの本を読んだ。非常電源までも喪失し、計器の読み取り困難な状況の中でベントのためにバルブを開ける様子。チェフノブイリの10倍で北海道、東北と関東の汚染地域、西日本という三分割という最悪の危機を救ってくれたリーダーシップあふれる吉田所長や使命感、責任感をもって対処してくれたフクシマ・フィフティや自衛官に感謝し敬意を払いたい。忘れてはならない。
原発事故の最初の1週間に、第一原発内で何が起きていたのかを描く。文字通り命懸けで限界状況に立ち向かっていった現場の”男たち”を”ヒロイック”に描く。その描写はまるでドラマのようだが、それは著者が取材した現場の人々に持った強い敬意の表れだろう。文章は非常に読みやすい。より多く読まれるべき本だろう。ただタイトルが内容をうまく表せていないように思う。副題に「吉田昌郎」の名だけがあがっているが、吉田氏以外の多くの人の活躍を描いており、紙幅の面でも必ずしも吉田氏だけがメインとは言えない。また、「五00日」とあるが、全375頁中、300頁ぐらいは3・11から一週間の出来事で占められている。(特に最初の3日間)。
やはり、現場で何が起きていたのかを知るためには必須の1冊といった評価のようです。


「死の淵を見た男」から何を学ぶか、どう活かすか
 

  • 原発事故当時、現場で起きていたことを知り、何が問題を大きくしたのかを知る
  • 原発事故当時、現場で働いていた人たちの働きぶりから「仕事」「使命」について考える
  • 組織でも家庭でも責任を明確にしておかなければ、問題が起こりやすく、また問題が大きくなる