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著者:佐々涼子
出版:早川書房
装丁:鈴木成一デザイン室
評価:★★★★★(5つ星が最高)


「オペラクリームHO四六判Y目」。この文字が意味するところをわかる人は決して多くはないだろう。これは、本書の本文に使われている紙の種類だ。そして、その紙は、本書の舞台になっている日本製紙石巻工場で作られている。

本書は、出版文化を支えるその工場で、震災時に何があったのか。そして、どのような決断と努力があり工場は再開に至ったのか。そこで働く人の思いや葛藤、そして紙がつなぐ人と人との絆を感じさせる一級のノンフィクション作品だ。




章立ては以下の通り

第1章 石巻工場破滅
第2章 生き延びた者たち
第3章 リーダーの決断
第4章 8号を回せ
第5章 たすきをつなぐ
第6章 野球部の運命
第7章 居酒屋店主の証言
第8章 紙つなげ!
第9章 おお、石巻


第1章は、まさに地震がおき、その後津波におそわれる工場と町の状況を描いている。ある人物の決断が工場で働いていた人を救うことになる。その決断がなければ、人的被害は大きなものになっていただろう。震災という非常事態下、リーダーの決断には多くの人の命がかかっていたことが実感できる。


第2章は、津波襲来前に工場横にある日和山に逃げることができなかった行方不明者5人の目線で語られる。ここでも一つ一つの決断が、命に直結していたことを思い知らされる。


第3章は、その後の日本製紙石巻工場、そしてそこで働く人たちの命運を左右する2つの決断についてだ。一つ目は、社長が石巻工場を閉鎖しないと決めたこと。二つ目は、工場長が、運転再開を半年後までにすると決めたことである。この二つの決断がなければ、この本が誕生することもなかったであろう。


第4章、5章は、半年ごと期限が決められた運転再開の日に向けての従業員たちの奮闘について書かれている。時間が無い中での厳しい作業、そして、地元住民たちのためにもなんとか頑張ろうとする姿には思わず感動してしまう。


第6章、7章は少し目線を変えての話になっている。6章では、野球部について。そして、7章は、地元の居酒屋の店主が語る震災後の人々の姿である。震災後にもかかわらず治安が乱れなかったと言われているが、必ずしもそうではなかったことがわかる。


第8章からは再び、工場再開にむけての話になる。他の章でも感じることが、この工場で働く人が、誇りを持って仕事に向き合っていることがよくわかる。9章は、震災からしばらく経ってからの工場と、その後の野球部について書かれている。

「紙つなげ 彼らが本の紙を造っている」のまとめ

当然のことだけど、本を作るのには紙が必要だ。しかし、その紙を造っている人たちのことは考えたことが無かった。本書は、そのように僕たちの目に見えないところで仕事に向き合う人たちのことを教えてくれた。


未曾有の災害にも負けず、そして、決して順風とはいえない経営環境の中で、前向きに頑張る人たちの姿には静かな感動がある。本書の中に「たすきをつなげ」という章があるが、彼らがつないだたすきは、こうしてこの本を手にする僕たちに届いている。


彼らが日本の出版を支えていることはよくわかった。今度は、僕たちのような本を愛する人たちが、彼らを支える番ではないだろうか。