日本経済入門 (講談社現代新書)

日本経済入門 (講談社現代新書)

  • 作者:野口 悠紀雄
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2017-03-15

アベノミクスで株価は上がり、失業率も低下し日本経済は一見調子が良さそうである。しかし、一方で国の債務は天文学的なレベルにふくれあがり、年金などの社会保障についても破綻の懸念がしばしば話題にあがる。日本経済の状態は良いのか悪いのか。未来は希望に満ちているのか、それとも悪夢が待っているのか。これらは有識者でも大きく意見がわかれるし、当然、経済の素人には実態がなかなかみえてこない。本書では、実際のところ日本の経済はどうなのか?なにが問題で、どのような政策をとればいいかについてデータを示しながらわかりやすく説明してくれている。


本書は10章からなる。そこでは経済指標の基本、製造業の立ち位置、格差問題、デフレ、異次元金融緩和、労働力不足、社会保障制度の問題、日本のとるべき道などについて書かれている。結論を先にいってしまうと、以下の三点になる。

  • 金融緩和では経済は根本的にはよくならない。
  • いまのままでは日本の財政・社会保障は維持できない
  • 生産性の向上が不可欠

なかでも生産性の向上をできるか否かが日本の未来を大きく左右するだろう。最近では電通社員の過労死などが大きな問題になったが、これらも生産性の低さを労働時間の長さでカバーしようとしたことによる当然の結果である。今度、労働人口が大きく減少する中で、現在の豊かさを維持するためには移民を受け入れるか、生産性を向上させるしかない。


生産性の向上とはつまり新たな技術の開発とほぼ同意といっていいだろう。日本は技術力は高いといわれているが、ある調査では技術革新力については日本は16位となっている。1位はスイスで、アメリカは4位、アジアでは韓国の11位が最高位となっている。日本の潜在力からするとこの順位は不本意なものだ。また、本書では、ユニコーン企業の有無でもイノベーション力をはかっている。(ユニコーン企業とは、未公開で時価総額が10億ドルを超える企業のことで、Uber(ウーバー)やAirbnb(エアビーアンドビー)などの企業が代表例)経済誌フォーチュンによる調査によるとこのユニコーン企業の数がアメリカ100社、中国36社、インド7社などとなっている。気になる日本はというと、0社つまり無しである。不甲斐ない。



著者の野口悠紀雄氏は経済学の世界ではかなり著名な方で、最近ではビットコインやブロックチェーンについての書籍も書いている。本書では言及されていないが、著者は日本のポスト製造業の筆頭がこれらのフィンテック産業だと考えているのではないだろうか。また、アベノミクスについて批判的であることもよく知られている。野口氏は経済についての書籍だけではなく、勉強法についての本も何冊か書いている。それは、やはり日本の生産性の低さについて大きな問題意識を持っていることのあらわれなのだろう。


「経済ってなんか苦手だよなぁ」と感じている人は多いかもしれない。しかし、私たちは毎日、経済にかかわっている。あなたが何にお金を使い、何に使わないのか。そんな身近なことの積み重ねが経済のもっとも基本的な要素になっている。就職、ボーナス、昇給、年金、住宅など経済は私たちの人生のあらゆる場面で経済の知識は役にたつ。いってみれば経済の知識は武器になる。そんな武器を手に入れるための第一歩として本書はよいきっかけとなってくれるはずだ。 
 
 
日本経済入門 (講談社現代新書)

日本経済入門 (講談社現代新書)

  • 作者:野口 悠紀雄
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2017-03-15

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