一日三時間の労働。

朝9時から12時までで仕事が終わる世界。
おお、そこはまさにユートピアではないか…


「でも、そんな世界ありえないよね」


と凡人のわたしたちなんかは思ってしまう。しかし、そんなユートピアを本気で考える男がいる。 本書の著者ルトガー・ブレグマンである。


本書でブレグマンは、以下のことを主軸にして論じている。

タイトルはハイエクの『隷属への道』からきている


本書のタイトル『隷属なき道』は、ハイエクの名著『隷属への道』からきている。ちなみにオランダ語版の最初のタイトルは『ただでお金を配りましょう』で、英語版のタイトルは『現実主義者のための理想郷』である。


本書の主軸は、ベーシック・インカムについてであるが、それは手段であって目的ではない。著書が求めるものは、人々がお金の呪縛から解放されて、自分のすべきこと、したいことができる社会をつくることである。つまり、「お金への隷属なき社会」こそが著者のユートピアなのである。



ユートピアという言葉を聞くと、かつての社会主義やナチスのようなものを思い浮かべてしまうかもしれない。しかし、著者はユートピアをつくる作法は二つのあるという。一つは全てが周到に計画する方法(つまり、ソ連などが求めたもの)もう一つは、ぼんやりとした輪郭のみだが、人々を変わろうという気にさせる方法。つまり著者が本書で提示するものである。



ユニバーサル・ベーシック・インカムとは何か?

 

ベーシック・インカムはここ数年、日本でも注目されている。


ベーシック・インカムとは「年齢、収入にかかわらず国民一人ひとりに生活に必要なお金を配りましょう」というもの。


それを聞いて人は

「そんなことをするだけの予算はない」
「生活に必要なお金が手に入るのであれば、人は働かなくなり、怠惰になる」


といった反応をするだろう。


しかし、予算の問題について著者は、「アメリカでベーシックインカムによる貧困撲滅にかかる費用は、わずか一七五〇億ドルで、GDPの一パーセント以下だ」としている。


また、日本の場合についての記述は本書にはないが、原田泰の『ベーシック・インカム』(中公新書)で、その実現性について論じられており、実現可能であるという結論になっている。


つまり、予算面においては、ベーシック・インカムは実現可能であると言える。



それでは、「生活に必要なお金が手に入るのであれば、人は働かなくなり、怠惰になる」という部分はどうかというと、本書ではいくつもの反証を出して、そうはならないと証明している。


例えば、以下のようなものである。

「フリーマネーの支給が犯罪、小児死亡率、栄養失調、一〇代の妊娠、無断欠席の減少につながり、学校の成績の向上、経済成長、男女平等の改善をもたらすことがわかっている」


「貧しい人々がフリーマネーで買わなかった一群の商品がある。それは、アルコールとタバコだ。実のところ、世界銀行が行なった大規模な研究によると、アフリカ、南アメリカ、アジアで調査された全事例の八二パーセントで、アルコールとタバコの消費量は減少した」


「カナダで一九七〇年代に世界最大規模のベーシックインカム実験ミンカムが行われた。一〇〇〇世帯を対象とした実験結果から、町では入院期間が八・五パーセントも減ったことが分かった。家庭内暴力も減少、メンタルヘルスの悩みも減った。先進国でヘルスケアにかかる公共支出の大きさを考えると、その財政的意味は大きい。」


つまり、ベーシック・インカムは、

  • 予算的に可能であり 
  • 経済成長をもたらし 
  • 子供の学校での成績を伸ばし 
  • アルコールやタバコの消費量を減らし 
  • 医療費の削減にもつながるのである 
いいことづくめではないか。


 

人類は機械との競争に敗北する。しかし、それは福音である



著者はまず、以下のような例をあげ現在のGDP至上主義に疑問を呈する。

「GDPにとって理想的な市民は、がんを患うギャンブル狂で、離婚調停が長引くせいでプロザック(抗うつ剤)を常用し、ブラック・フライデー[クリスマスセールの初日]には狂ったように買い物にふける人だ。」


こんな市民が多くなることで、GDPは大きくなるのだが、どう考えてもこれは幸福な市民のあり方ではない。


もともとGDPという指標は戦争における国力を計るためにつくられたもので、国民の幸福の総量を表すものではない。つまり欠陥だらけのしろものでそんな指標とはそろそろおさらばしなければならない。


では、幸福を増やすためにはどうすればいいのだろうか?


ドイツでの研究では「幸福度を最大限にするには、生活に占める労働と消費の(いずれもGDPを増やす)の割合を減らすのが得策であるらしい」ということがわかっている。


また、労働時間の短縮は生産性の向上につながることがわかっている。


つまり労働時間を減らしても減らした時間ほどには生産高は下がらないのだ。(むしろ上がるケースもあり、それをうまく利用したのがヘンリー・フォードである)


そして、さらにAIの力を借りて人間の仕事をやってもらえば、より労働時間は少なくなり、人生で本当に大切なことをする時間が生まれる。


現代社会では、あまりにも多くの優秀な若者が収入面の魅力に惹かれて、本質的に価値のない仕事についていると著者は嘆く。


本書でも紹介されているが、ニューヨークのごみ収集とアイルランドの銀行員のストライキの話はとても示唆に富む。


そろそろわたしたちは本当に大切な仕事に戻った方が良さそうだ。